<遺族年金の受給要件-「生計同一要件」>
「賃金と社会保障」(旬報社)という旬刊誌があります。
6月上旬号の特集は、「DV避難による長期別居者の遺族年金の権利」です。
こんなところに未解決の問題があるのか、と思いました。
要するに、遺族厚生年金をもらえるのはどういう人か、ということを決める要件の1つである「生計同一要件」というのが問題となっているのです。
年金の考え方は、基本的に法律婚をしているかどうかではなく、実質的に同一家計で生活を営んでいるかどうかで決めます。税金や相続関係とは違うところです。
そのため、事実婚(内縁)関係であっても遺族厚生年金はもらえます。
他方、別居している夫が他の女性と一緒に住んでいて(これを「重婚的内縁関係」と言います)、死亡した場合、法律婚の妻との夫婦関係が「その実態を全く失ったものとなっている」と認定されれば、法律上の配偶者ではなくて一緒に住んでいた女性の方に遺族厚生年金が払われます。
そして特集のテーマは、「DV夫から逃げ出し、離婚手続をとることもなく長期間にわたり別居をしていた妻が、夫の死亡により遺族厚生年金を受給できるか」というものです。
(*DV妻と被害者である夫という関係もありえますが、典型例としてDV夫と被害者である妻の問題をとり上げます。)
もし、DV夫が他の女性と同居していたら、国の審査により法律婚の妻との夫婦関係の実態が全くないとされれば、夫の遺族厚生年金は後で同居を始めた女性の方へ払われます。不条理な感じはしますが、こと年金に関してはそういう運用になっています。
しかし、DV夫が特定女性と同居はしないままに死亡した場合、遺族厚生年金の受給資格があり得るのは法律婚の妻だけです。それでも、生計を同一にする実態を全く失ったと認定されてしまうと、遺族厚生年金はもらえません。
しかしこれでは、夫のDVから逃れ、以後接触を避けて逃げるように生きてきた妻への保護に欠けるのではないか?という問題意識です。
この特集では、これまで「2年」や「4~5年」程度の別居ケースでは「生計同一要件」を充たすと認める判決例があったけれども、「13年以上」の長期別居ケースでの不支給処分を争い、国に対して遺族厚生年金支給裁決の義務付けを命じる判決を得たケースの紹介でした。それを紹介した弁護士は、DV被害者なのに、行政が遺族厚生年金支給を硬直的判断で拒み、それを行政訴訟手続によらなければ覆せなかった現実を、怒りを込めて糾弾しています。
<13年以上のDV別居での「生計同一要件」立証>
さて、13年以上のDV別居ケースであれば、離婚申入れの接触を図ることなど考えもせず、ひたすらDV夫の老衰または死亡を待っていたケースだと推測できます。通常であれば、これでは生計を同一にする実態を全く失ったと判断されてしまいます。紹介された判決では、夫と妻の間に経済的社会的関係があったことを示す事情として、
①夫婦どちらからも離婚に向けた働きかけなし
②夫が妻の分の加給年金を受けていた
③夫が所得申告で配偶者控除を受けていた
④妻の老齢年金について、夫は自己のカラ期間の利用に反対しなかった
⑤夫婦で葬儀保険に加入し、夫が保険料を払っていた
⑥夫が逮捕された際、妻として対応した
⑦妻が夫の死亡届を出し、喪主として葬儀をした
といった諸事情を認定して、生計同一要件を満たすとの評価をして遺族厚生年金受給権を認めたのです。
DV被害者である妻がひたすら逃げ隠れてDV夫の死亡通知を待つ(戸籍謄本には配偶者と記載されているから)、という事例は、実は多いのかも知れません。
しかし、夫の残したものは借金のみで相続財産なし、さらに頼みの綱の遺族年金の支給さえ望めない、ということになりかねません。
<DV夫と別居できたら、弁護士を依頼してください>
そこで、弁護士の登場です。
DV夫から身を隠すまでは、こっそりご相談を。法テラス援助の相談は、離婚の事案では夫の収入は入れずにご本人の収入のみで要件判断をします。月収が20万円を超えても大丈夫ですので、かなりの方はクリアでき、無料で相談を受けていただけると思います。
別居に成功したら、弁護士と委任契約をし、代理人としてDV夫との交渉の窓口になってもらいましょう。
DV夫は相手方が弁護士だとなると気が萎える場合もありますが、いよいよいきり立つ危険な場合もあります。それでも、DV案件では警察も裁判所も、被害者の生命身体を危険から守るということを第一義に対応してくれます。
家庭裁判所に、別居後離婚までの生活費=婚姻費用を請求する調停を申し立てます。婚姻費用は生活の掛かった請求ですから、家庭裁判所は調停で解決しなければそのまま審判手続で婚姻費用の金額を決めてくれます。審判が確定すれば、DV夫の給料や預金から差押えをする権利も持つことができます。
まず、夫から婚姻費用を定期的に払わせること。これが将来の遺族厚生年金受給の「生計同一要件」の立証資料ともなります。
そして、夫が婚姻費用支払いに音を上げて、「早く離婚してほしい」と思うようになれば、夫の方から解決金額を提示して離婚交渉を持ちかけてきます。
離婚してしまえば遺族厚生年金の受給権はなくなりますが、解決金額をその分たくさんもらうように交渉しましょう。
弁護士は、そういう作戦の参謀であり、水先案内人であり、ボディガードでもあります。役に立つと思われませんか?
なお、DV夫にも堅い職業に就き厚生年金もきちんと掛けている人もいれば、国民年金すら払っていない人もいます。自営業などでは、どこに財産があるのかわからないので婚姻費用を払ってもらうことができないこともあります。大変な資産家でも、あらゆる手段を使って妻への遺留分が少なくなるように手立てしてしまうこともあります。
じっと夫が亡くなるまで耐え忍ぶのがよいのか、婚姻費用くらいはもらっておくようにするのか、離婚して生活保護や母子家庭への福祉措置を受けることにするか、それをご相談いただくのが、弁護士です。
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