この詩集は、既に9年前(2010年)に出版されていたもので、私が読んだのは文庫版です。
奈良少年刑務所は1908年(明治41年)に竣工した煉瓦造りの美しい刑務所ですが、2016年度末で閉鎖されました。この建造物を活かすために、ホテルに変わるという話題が、マスコミでも取り上げられているところです。
その話題からだったと思いますが、この本が紹介されていて、私も読んでみる気になりました。
この詩集の編者は、寮美千子さんという作家の方で、たまたま奈良市に移住して奈良少年刑務所の矯正展を訪れたことをきっかけに、刑務所内の「社会性涵養プログラム」で「童話と詩」という全6回の授業を担当されました。
寮さんによる、「きっかけ」から始まる経験談の描写がすばらしいのです。
当初、受刑者の罪名(強盗・殺人・強姦等)を聞いて抱いた恐怖感も率直に書かれており、それが授業をする中で印象が変わっていく経緯、全6回の授業の中で「一度も耕されたことのない荒地」が「魔法にかかったように変わっていく」姿について、本当に具体的に目に浮かぶように描かれています。
受刑者の26歳までの少年たちが書いた詩も、胸を打ちます。自分のこと、被害者に対する気持ち、家族、特に母親に対する気持ち。思慕だったり、優しさに苦しんだことの告白だったり。
詩は、ここまで人の思いを映し出すものなのか、と思います。
そして、作成した少年はこれらを授業の中で朗読し、一緒に受講している仲間から拍手され、評価されて、ぐんぐんと自分に自信を付けていったと言います。
私たち弁護士は、被疑者・被告人となった人たちに「弁護人」として関わる経験を積んできましたので、罪名を聞いて別世界の人を見るように「怖い」と思うことはありません。でも、関わる経験がなければ、縁遠い存在でしかないのでしょう。
いずれ出所して帰ってくる人たちです。せめて地続きのところにいる同じ人間として、社会のたくさんの方々に理解してほしいと思っているのですが、この本は絶好の書だと思います。
520円(消費税別)で手軽ですので、ぜひ読んでみてください。
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