弁護士にとっては、受任した事案で相手方の所在を把握するのは、重要な仕事です。
住所を住民票調査で調べることが多いですが、あえて住民票を動かさずに別の住所地に住んでいる人もいます。
そういう人は郵便局に「転居届」を出していることが多いですから、郵便物を送れば届きますし、届け先の取扱郵便局までは追跡によりわかります。ただ、正確な住所地はわかりません。
これまでは、弁護士会からの照会手続をとっても、郵便局は「転居届」記載の転居先住所を回答することはありませんでした。
しかし、2023年(令和5年)6月1日から、一定要件の下、転居届記載事項(転送先住所等)の回答が得られることとなりました。
2022年(令和4年)7月に改訂された「郵便事業分野における個人情報保護に関するガイドラインの解説」(個人情報保護委員会・総務省)による運用の変更です。
要件は、
①ア 訴え提起等の法的手続を採ろうとする者が、申立ての相手方の住所の特定を図ろうとするための照会であること、
イ 判決等の強制執行をするに際して相手方の住所を特定するための照会であること
これらのどちらかであって、
②弁護士会が審査して、DV・ストーカー・児童虐待の事案との関連が窺われない法的手続であり適当と判断したことを表示した照会であること、
です。
これらを弁護士会がどうやって判断するかということについては、
「弁護士会員が詳細に理由を説明すること」及び
「依頼者本人に『DV・ストーカー・児童虐待に係る事案ではありません、得られた住所情報は決してそのために利用しません』という文言への署名押印をさせた報告書を提出すること」
により担保することになっています。
【DV・ストーカー・児童虐待の被害者の方々を、弁護士は守る責任があること】
決して加害者から居所を知られたくない立場の人の典型である、DV・ストーカー・児童虐待被害者の方々。弁護士は特に注意を払い、依頼者が決して転居先住所を悪用することがないのを確認する必要があります。
【DV・ストーカー・児童虐待ではない事情で住民票を異動させない方々へのご注意】
他の事情で(例えば成人親子間でも深刻なトラブルのある場合や、金銭トラブル等)住民票を異動させたくなく、「転居届」のみをずっと更新し続けている方もおられるのではないでしょうか。しかし、住民票を動かさなくても「転居届」記載の居所が知られてしまうことがあり得ます。
社会生活上、住民票所在地へ重要な郵便物が届くことが多いですから、住民票を動かさずに「転居届」で凌ぐよりも、根本的に相手方との解決を図るということを考えてみませんか。
それが、弁護士の出番ということになります。何かの解決の方法が見つかると思います。どうぞ相談してみてください。
去る月4日、私も弁護団に入っている訴訟の勝訴判決が出ましたので、簡単にご報告します。大阪地方裁判所での、大飯原子力発電所設置変更許可取消請求訴訟です。
大飯原子力発電所の運転を許可するのは国ですが、東日本大震災で福島第一原発が地震と津波で大被害を受け、また甚大な損害をもたらしたことを受けて、国は設置や運転の許可を出す機構を再編し、「新規制基準」を設けて、その基準を満たさなければ運転の許可を出さないことにしました。
今回の訴訟は、大飯原発について国が「新規制基準」を満たすと判断して運転許可を出したのに対して、その許可を取り消すよう求めた訴訟でした。
沢山の方が、危険な原発を稼働させたくないという思いで原告になりましたが、今回の判決は、大飯原発から約120キロメートル以内に居住する原告に限定をしたため、8名の原告が請求却下とされました。それはそれで原発事故の影響を受ける範囲を狭く見すぎたもので異議があるところです。
ただ、他の原告による訴えについて、裁判所は、国の「新規制基準」該当性調査に不備があるとして運転許可の処分を取り消しました。
大飯原発は、現在は運転停止中であったため、「運転を止める」までもないのですが、今後、国は控訴をしてくるでしょうし、そうすると処分取消の効果は生じません。
文系の私がなぜ原発訴訟の弁護団に入ったかと言いますと、それは先輩の弁護士に「入って」と言われて断れなかったことに始まります。それも、まずは佐賀県の玄海原発のプルサーマル訴訟というものからでした。その後に東日本大震災が発生し、玄海原発に加えて大飯原発の弁護団にも入ることになりました。
原発訴訟の大変なところは、原発の危険性については技術的な議論になり、技術的に安全なのかどうかは、電力会社の技術者の説明に依存しがちになるところです。その説明は正しいのかどうか、原告側もわからず、裁判官ももちろん専門家でないので大変だと思います。
そうしたブラックボックスの中身の解明のような作業では勝算が見込めないのですが、今回の勝訴判決は、実際のところ、被告国側の説明が曖昧で「裁判所の問いに答える」ものになっていなかったことによります。
裁判所は「その説明では『新規制基準を満たすと判断した』ことの説明ができていない」と判断したわけです。
原子力発電所の運転に関しては、電力会社・地元・原発労働者や技術者・影響を受ける市民等々、複雑に利害関係が絡みます。「原子力発電を止める」のは重大な政策変更ですし、「原子力発電を続ける」となれば安全でなければなりません。
「安全かどうか」は市民の重大な関心事ですから、電力会社と国は誠実に詳細に説明をする姿勢が求められます。その気持ちに、大阪地裁の裁判官3名は応えてくれました。
私は、この判決の日に別の会議があって、法廷で判決を聞けず、門前の旗出しにも立ち会えませんでした。本当に残念だったな、と、写真を見ながら思います。
12月8日(火曜)に開催された長野県弁護士会の研修会で講師を務めさせて頂きました。
長野県弁護士会は、今年、国際人権委員会を発足されました。国際人権委員会は、国籍を問わず広く県民のリーガルアクセスに応えることのできる会内の体制作りがその任務とされており、その第1回研修会として「韓国・朝鮮籍の家事事件手続(離婚、相続)について」を企画されたとのことで、弁護士法人オルビスの李麗奈先生(第二東京弁護士会)とともに、講師としてお話をさせて頂いた次第です。
研修会は、昨今の新型コロナウィルス感染拡大のため、オンラインで、大阪から参加させて頂きました。
婚姻・離婚、相続に関する国際裁判管轄・準拠法、韓国の身分証明書の取得方法、日韓の家族法の相違点など、幅広い事項について概観する内容でした。
そのため、研修会準備の過程で、日韓の家族法や国際私法に関する条文、文献、裁判例などを改めて見直すことができた良い機会となりました。
貴重な機会をくださった長野県弁護士会の先生方に、厚く御礼申し上げます。
#弁護士会 #婚姻 #離婚 #相続 #渉外家族法 #韓国民法
今年はコロナの影響で、裁判所が訴訟や調停の期日を延期する対応を余儀なくさ
れました。
そのため、現在でも期日がなかなか入らないという影響が継続しています。
特に大阪家庭裁判所は、調停の期日が2ヶ月おきにしか入らないというのが現状で
す。
11月からは、これまで午前と午後の2部制だった期日が、午前1つ、午後2つの3部
制に変更になります。
当然、1つの期日の時間が短くなりますので、話し合いをまとめるタイミングを作
るのが先延ばしになる心配があります。
そこで、夫婦関係の調整(円満調整・婚姻費用請求・離婚等)を進めたい方には、
弁護士に委任して相手方との交渉を期日間も進めるようにお考えになるのが、時
間を有効活用するために有効だと考えられます。
つまり、期日と期日の間が長めになりますので、その間に相手方とスムーズに交
渉を進めるために、ぜひ代理人弁護士をご利用ください、ということです。
弁護士費用は着手金で20万円から50万円(消費税別・実費別)はお考えいただく
必要がありますが、人生の中の大事な時間をコロナの影響で無駄にしたくないと
お考えの方は、ご検討いただくのが良いと思います。
この写真は、事務所からすぐの中之島公園の秋バラです。「しのぶれど」は、百
人一首の1つの恋歌。闇雲に丸暗記をして大人より早くカルタを取ることに夢中
だった小学生の頃を、恥ずかしく思い出します。
10月12日(月曜)に開催された大阪弁護士会・ソウル地方弁護士会の交流会に参加しました。
大阪弁護士会(以下「大阪会」)は、今では、ソウル、カリフォルニア州(国際法セクション)、バルセロナ、香港、台北、シンガポール等の外国の弁護士会と友好協定を締結しています。
そのうち、最初に友好協定を締結したソウル地方弁護士会(以下「ソウル会」)との交流会も、毎年回数を重ね、今年は27回目となりました。
私は、2011年の第18回交流会から、大阪会でセミナー資料の日本語訳、当日の通訳等を担当しており、記念すべき10回目の参加となりました。
ソウル会との交流会は、年1回、1年ごとにソウルと大阪で交互に開催しており、今年は、ソウルで開催する予定でした。しかし、年初からの新型コロナ感染拡大により日韓の相互往来が困難になったことを受け、ソウル訪問を断念し、ZOOMを利用したオンラインで開催することにしました。
本年の交流会は「弁護士会の役割」、「新型コロナウィルス感染症下における両国法曹界の対応策」という2つのテーマでシンポジウムが行われました。
(質疑応答でのZOOMの画面。右上の「OBA Interpreter」が私です。)
特に、新型コロナに対する対応策に関する韓国の動きの素早さに目を引かれました。
韓国は、日本ではオンラインで期日を開くことができる弁論準備手続について、以前にはオンライン裁判をすることができなかったのですが、新型コロナ拡大を受け、今年6月に素早く民事訴訟規則を改正しオンラインで弁論準備期日を開くことを可能にしました。
この交流会の前にも、韓国で、法廷のスクリーンに当事者代理人を映し出して、オンラインで期日を進める様子が報道されていました。
連合ニュース 2020.3.18.「コロナ19拡散防げ…大邱高裁、初のリモート映像裁判」
https://www.yna.co.kr/view/AKR20200318122900053
韓国では、書面をオンラインで提出する「電子訴訟」が一般化しており、ずいぶん以前から、当事者から提出された書面ファイルを映し出すためのスクリーンが法廷に備え付けられていることに加え、将来のオンライン裁判に備えて、2017年中にリモート裁判のためのシステム・設備を既に導入していたそうで、今回のリモート裁判実施のうえで、設備面での大きな不都合は無かったとのことでした。
その他にも、仮処分等の保全事件の審問期日をオンラインで開いたり、ソウルの回生法院(倒産裁判所)の庁舎では、オンラインで期日を開くための審問室6部屋が既に設置された、などの報告もありました。
最後に、両会の会長から、ともに、来年は、コロナが終息して対面で交流会議を実施できるようになること、その日まで両会の皆さんが健康に過ごされることを祈念する旨の挨拶を述べられて、交流会がお開きとなりました。
今回、新型コロナのために開催自体が危ぶまれましたが、日韓の弁護士の交流を継続するために、両会がオンライン開催に挑戦した意義深い交流会となりました。
オンラインによる国際セミナーは、通訳が関与する場合には、対面によるセミナー以上に準備事項が多く、例年にない苦労がありました。
当日、オンラインという方法による小さなトラブルがいくつかありましたが、全体的に大過なく行事を終えることができました。
ホストを務めたソウル会の事務局の皆さんが、非常に詳細なマニュアルを作成して周到に事前準備をされ、それに基づき両会で事前のリハーサルを重ねた成果ではないかと思います。
ご準備を担当された両会の事務局の皆さんに、厚く御礼申し上げます。
大阪会も、ソウル会も、今回の交流会が、互いに、初めての海外の弁護士会とのセミナーの開催だったとのことです。
両会ともに、今回の経験を今後に活かし、コロナ禍の最中ではありますが、活発な国際交流につなげていただければ幸いです。
#弁護士会 #日韓交流 #新型コロナ #ZOOM
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