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2020年6月の記事一覧


<DV避難者に、配偶者死後の遺族厚生年金はもらえるか>【大橋】

  弁護士業務

<遺族年金の受給要件-「生計同一要件」>

 「賃金と社会保障」(旬報社)という旬刊誌があります。

 6月上旬号の特集は、「DV避難による長期別居者の遺族年金の権利」です。

 

 こんなところに未解決の問題があるのか、と思いました。

 要するに、遺族厚生年金をもらえるのはどういう人か、ということを決める要件の1つである「生計同一要件」というのが問題となっているのです。

 年金の考え方は、基本的に法律婚をしているかどうかではなく、実質的に同一家計で生活を営んでいるかどうかで決めます。税金や相続関係とは違うところです。

 そのため、事実婚(内縁)関係であっても遺族厚生年金はもらえます。

 他方、別居している夫が他の女性と一緒に住んでいて(これを「重婚的内縁関係」と言います)、死亡した場合、法律婚の妻との夫婦関係が「その実態を全く失ったものとなっている」と認定されれば、法律上の配偶者ではなくて一緒に住んでいた女性の方に遺族厚生年金が払われます。

 

 そして特集のテーマは、「DV夫から逃げ出し、離婚手続をとることもなく長期間にわたり別居をしていた妻が、夫の死亡により遺族厚生年金を受給できるか」というものです。

 (*DV妻と被害者である夫という関係もありえますが、典型例としてDV夫と被害者である妻の問題をとり上げます。)

 もし、DV夫が他の女性と同居していたら、国の審査により法律婚の妻との夫婦関係の実態が全くないとされれば、夫の遺族厚生年金は後で同居を始めた女性の方へ払われます。不条理な感じはしますが、こと年金に関してはそういう運用になっています。

 しかし、DV夫が特定女性と同居はしないままに死亡した場合、遺族厚生年金の受給資格があり得るのは法律婚の妻だけです。それでも、生計を同一にする実態を全く失ったと認定されてしまうと、遺族厚生年金はもらえません。

 しかしこれでは、夫のDVから逃れ、以後接触を避けて逃げるように生きてきた妻への保護に欠けるのではないか?という問題意識です。

 この特集では、これまで「2年」や「4~5年」程度の別居ケースでは「生計同一要件」を充たすと認める判決例があったけれども、「13年以上」の長期別居ケースでの不支給処分を争い、国に対して遺族厚生年金支給裁決の義務付けを命じる判決を得たケースの紹介でした。それを紹介した弁護士は、DV被害者なのに、行政が遺族厚生年金支給を硬直的判断で拒み、それを行政訴訟手続によらなければ覆せなかった現実を、怒りを込めて糾弾しています。

 

<13年以上のDV別居での「生計同一要件」立証>

 さて、13年以上のDV別居ケースであれば、離婚申入れの接触を図ることなど考えもせず、ひたすらDV夫の老衰または死亡を待っていたケースだと推測できます。通常であれば、これでは生計を同一にする実態を全く失ったと判断されてしまいます。紹介された判決では、夫と妻の間に経済的社会的関係があったことを示す事情として、

 ①夫婦どちらからも離婚に向けた働きかけなし

 ②夫が妻の分の加給年金を受けていた

 ③夫が所得申告で配偶者控除を受けていた

 ④妻の老齢年金について、夫は自己のカラ期間の利用に反対しなかった

 ⑤夫婦で葬儀保険に加入し、夫が保険料を払っていた

 ⑥夫が逮捕された際、妻として対応した

 ⑦妻が夫の死亡届を出し、喪主として葬儀をした

 といった諸事情を認定して、生計同一要件を満たすとの評価をして遺族厚生年金受給権を認めたのです。

 

 DV被害者である妻がひたすら逃げ隠れてDV夫の死亡通知を待つ(戸籍謄本には配偶者と記載されているから)、という事例は、実は多いのかも知れません。

 しかし、夫の残したものは借金のみで相続財産なし、さらに頼みの綱の遺族年金の支給さえ望めない、ということになりかねません。

 

<DV夫と別居できたら、弁護士を依頼してください>

 そこで、弁護士の登場です。

 DV夫から身を隠すまでは、こっそりご相談を。法テラス援助の相談は、離婚の事案では夫の収入は入れずにご本人の収入のみで要件判断をします。月収が20万円を超えても大丈夫ですので、かなりの方はクリアでき、無料で相談を受けていただけると思います。

 別居に成功したら、弁護士と委任契約をし、代理人としてDV夫との交渉の窓口になってもらいましょう。

 DV夫は相手方が弁護士だとなると気が萎える場合もありますが、いよいよいきり立つ危険な場合もあります。それでも、DV案件では警察も裁判所も、被害者の生命身体を危険から守るということを第一義に対応してくれます。

 家庭裁判所に、別居後離婚までの生活費=婚姻費用を請求する調停を申し立てます。婚姻費用は生活の掛かった請求ですから、家庭裁判所は調停で解決しなければそのまま審判手続で婚姻費用の金額を決めてくれます。審判が確定すれば、DV夫の給料や預金から差押えをする権利も持つことができます。

 まず、夫から婚姻費用を定期的に払わせること。これが将来の遺族厚生年金受給の「生計同一要件」の立証資料ともなります。

 そして、夫が婚姻費用支払いに音を上げて、「早く離婚してほしい」と思うようになれば、夫の方から解決金額を提示して離婚交渉を持ちかけてきます。

 離婚してしまえば遺族厚生年金の受給権はなくなりますが、解決金額をその分たくさんもらうように交渉しましょう。

 弁護士は、そういう作戦の参謀であり、水先案内人であり、ボディガードでもあります。役に立つと思われませんか?

 

 なお、DV夫にも堅い職業に就き厚生年金もきちんと掛けている人もいれば、国民年金すら払っていない人もいます。自営業などでは、どこに財産があるのかわからないので婚姻費用を払ってもらうことができないこともあります。大変な資産家でも、あらゆる手段を使って妻への遺留分が少なくなるように手立てしてしまうこともあります。

 じっと夫が亡くなるまで耐え忍ぶのがよいのか、婚姻費用くらいはもらっておくようにするのか、離婚して生活保護や母子家庭への福祉措置を受けることにするか、それをご相談いただくのが、弁護士です。

 

<手持ち金が10万円を切ってしまったら、生活保護を考えて>【大橋】

  弁護士業務

 この新型コロナウイルスとの長くなりそうな闘いの中で、生活は維持できるのか?ということが目前の課題になっておられる方も多いと思います。

 

 100万円とか、50万円でも、手持ち金があれば「ご飯食べるだけなら数か月いけるかな」と思えますが(家賃が要る場合には「住宅確保給付金」という別の支援制度が3か月分使える可能性あり)、それどころではない方が、もし身近にいらっしゃったら。

 

 お住まいの自治体の役所へ、生活保護の申請に行ってください。

 

 皆さんの中には、「生活保護申請はとても難しい」「なかなか申請を受け付けてもらえない」というイメージを強くお持ちの方もいらっしゃるようです。

 ただ、現実には窓口の対応はだいぶ改善されてきたと言ってよいです。

 さらに、この新型コロナウイルスの影響下で、厚生労働省は3月10日付けで自治体に「新型コロナウイルス感染防止等に関連した生活保護業務及び生活困窮者自立支援制度における留意点について」という通知を出しています。

 

 https://www.mhlw.go.jp/content/000608930.pdf

 

 そこでは、「適切な保護の実施」「速やかな保護決定」を強調しています。

 さらに4月7日付けでは、「新型コロナウイルス感染防止等のための生活保護業務等における対応について」という通知を出しています。

 

 https://www.mhlw.go.jp/content/000619973.pdf

 生活保護申請をする意思がある人(単なる相談ではなく)には、「生活保護の要否判定に直接必要な情報のみ聴取」し、他の情報は「後日電話等により聴取する等、面接時間が長時間にならないよう工夫されたい」とするなど、柔軟な対応で早期に保護開始するようにと促しています。
 また、通勤用自動車を所有したままでも柔軟に認めることになっています。

 今の情勢、生活保護窓口の職員さんも「3密」を避けて仕事をしなければなりません。必要な人には迅速に、申請を受け付ける運用がなされます。

 

 早速、生活保護窓口へ申請に行ってください。

 

 あと、誤解されていることが多いのが、「持ち家では生活保護は受けられない」というものです。
 贅沢すぎる家でなければ、持ち家を持ったままでも生活保護を受けることができます。(ただし、固定資産税は生活保護で出してもらえませんし、持ち家の補修費用も出ませんから、先々は処分を考えた方が良いと思われます。)

 

 もう1つ、「家賃が高すぎると生活保護は受けられない」というのも誤解です。生活保護の支給は開始してもらえます。
 ただ、生活保護で支給される家賃補助額は世帯人数により決まっていますので、なるべく早く基準家賃以内の賃貸住宅に移転するよう求められます。引越費用は、生活保護費から支給されます。

 

 これから状況次第では生活保護を受けないといけないかも、という段階でのご相談も、私の方でお受けしています。「法テラス相談」をお使いになれば、相談は30分無料で3回まで受けていただけます。

 生活再建を考えたら、生活保護だけでなく、いろいろな問題の処理が絡んでくると思います。とりあえずお電話ででもお問合せください。

 

「在日韓国人の日本国内の銀行預金に関する相続準拠法」【金】

  弁護士業務

私が原告・被控訴人代理人として担当した事件の裁判例(大阪高判平成30年10月23日)が書籍に掲載されました。

 

「家庭の法と裁判 2020年6月号(vol.26)」(日本加除出版)
https://www.kajo.co.jp/magazine/index.php?action=magazineshow&code=31009000026&magazine_no=6

 

在日韓国人が日本の銀行に預貯金を遺したまま亡くなった場合に、どのように処理すべきかの裁判例です。

 

日本では、預貯金債権の相続について、過去の判例では、相続開始と同時に法定相続分に応じて当然分割されるとされていましたが、最高裁平成28年12月19日決定により判例が変更されたことで、現在、預貯金債権は当然に分割されず遺産分割の対象となることとされています。

 

他方、韓国では、預貯金債権の相続について、韓国の最高裁に相当する大法院の判例で、過去の日本の判例と同様に、原則として、相続開始と同時に法定相続分に応じて当然分割されると解釈されています。

 

そこで、在日韓国人が遺した相続預貯金について、死亡時の住居所である日本の判例が適用されるのか、本国(死亡時の国籍国)である韓国の判例が適用されるのかが争点となりました。

 

これについて、第一審の大阪地裁は、在日韓国人が遺した相続預貯金に関する準拠法が、法の適用に関する通則法36条の適用により、韓国法となるので、韓国大法院判例に従い、相続開始と同時に法定相続分に応じて当然分割されると判断しました。控訴審の大阪高裁も、この第一審の判断を維持しました。

 

最高裁平成28年12月19日決定後においても、在日外国人の相続預貯金の準拠法は、通則法36条により被相続人の本国法となることが示された点で、実務上、参考になるものと思われます。

 

#相続 #遺産分割 #渉外相続 #外国人 #韓国人

 

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